温暖化すると害虫発生量はどれぐらい増加するか?

論文:Yamamura, K., M. Yokozawa, M. Nishimori, Y. Ueda, and T. Yokosuka. 2006. How to analyze long-term insect population dynamics under climate change: 50-year data of three insect pests in paddy fields.
掲載誌:Population Ecology 48: 31-48. [PDF (652KB)] (Copyright by the Society of Population Ecology and Springer-Verlag Tokyo) The original publication is available at http://www.springerlink.com

個体群動態解析

地球の温暖化につれて害虫の発生量が増加すると考えられる。 これらを正確に予測するためには,まず過去の個体群動態データを解析して,その中に内在する機構を明らかにしなければならない。 ここでは,水戸市の茨城県農試で収集されてきた50年間の個体群動態データ(ニカメイガ,ツマグロヨコバイ,ヒメトビウンカ)をまず解析した。  

農作業や害虫防除の手法は時代によって変化してきており,それにともなって個体数のレベルは低下してきている。 個体群動態の内在的な仕組みを明らかにするためには,それをまず分離する必要がある。そのため,まず標準偏差5年のLOWESSにより平滑化を行い,その残差について多変量カルマンフィルターにより解析を行い,AIC基準によりモデルを選択した。 推定された式は害虫種によって大きく異なった。ニカメイガは遅れをともなったゆるやかな変動であり,ツマグロヨコバイは遅れのない変動であることがわかった(図1,図2) 。ヒメトビウンカについては複雑な式となり,かならずしも妥当な推定式は得られなかった(図3)。

気温の影響は冬季(前年11月から4月)と夏季(5月から10月)に分けて推定した。ニカメイガとツマグロヨコバイについては夏季の気温は無関係であり,前の冬季の気温が個体数を増加させることがわかった。 ただし,気温の影響は1年限りであり,翌年にはその影響は消えることがわかった。これは,冬季に何らかの理由で個体数がアジャストされることを意味している。

ニカメイガ長期個体数変動 

図1.水戸における50年間のニカメイガ発生量の推移。上図はライトトラップに捕獲さんれた年間の誘殺数の対数値 log10(x + 0.5) を示す。 破線は標準偏差0.5年の正規分布カーネル から計算した LOWESS による平滑化曲線。下図は log10(x + 0.5) と LOWESS 平滑化曲線との差 (Dt) を示す。

ツマグロヨコバイ長期個体数変動 

図2.水戸における50年間のツマグロヨコバイ発生量の推移。表記は図1と同じ。

ヒメトビウンカ長期個体数変動 

図3.水戸における50年間のヒメトビウンカ発生量の推移。表記は図1と同じ。

温暖化後の個体数

気象研究所で計算された全球気候モデル(MRI-CGCM2)を標準二次メッシュに変換し,このデータを用いて2031〜2050年平均の将来について予測を行った。 その結果,ニカメイガでは1.6倍程度,ツマグロヨコバイについては3倍程度に増加すると予測された(図4,図5)。 ヒメトビウンカについては,ニカメイガやツマグロヨコバイとはかなり違う予測となったが,ヒメトビウンカの結果については推定式の信頼性に問題がある(図6)。

ニカメイガ個体数マップ 

図4.温暖化後のニカメイガの個体数。R は2031〜2050年平均個体数の現在個体数に対する割合。(Copyright by the Society of Population Ecology and Springer-Verlag Tokyo)

ツマグロヨコバイ個体数マップ 

図5.温暖化後のツマグロヨコバイの個体数。R は2031〜2050年平均個体数の現在個体数に対する割合。(Copyright by the Society of Population Ecology and Springer-Verlag Tokyo)

ヒメトビウンカ個体数マップ 

図6.温暖化後のヒメトビウンカの個体数。R は2031〜2050年平均個体数の現在個体数に対する割合。(Copyright by the Society of Population Ecology and Springer-Verlag Tokyo)

温暖化後の減収率の増加

ニカメイガについては減収量を予測した。過去の文献から,株当たり個体数と被害茎率を「河野杉野式」で記述した。 また,補対数-対数変換後の被害茎率と対数減収率の関係を見るときれいな直線関係が見られた。 これらの関係式と,上で推定された個体数予測式を組み合わせることにより,減収率の増加倍率を計算することができる。 この計算の結果,全国を通じてだいたい.16倍程度に減収量は増加すると予測された(図7)。

ニカメイガ減収率の増加マップ 

図7.ニカメイガによる減収率の増加倍率。R は2031〜2050年平均の減収率と現在の減収率の比率。(Copyright by the Society of Population Ecology and Springer-Verlag Tokyo)



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